一体何なんだっ、この低レベルで無意味な言い争いは……。結局のところ何を言ったって、一度決まったことは覆ることはないということだ。
たかが名前の呼び方ひとつに、そこまでこだわることもないと思うんだけど。
彼氏でもない七つ年上の上司を、“龍之介”と呼ぶのは、どうなんだろう。
それでも小さく息をつき、気持ちを落ち着かせると、龍之介に向かい直った。
「昨日といい今日といい、本当にお世話になりました。今日は病院にも付き添ってもらって、本当に助かりました。点滴のおかげかな、気分もずいぶん良くなって来ましたし、明日からは会社にも出勤できそうです」
だから一泊分の着替えだけで十分!! と言うことを、龍之介にそれとなく伝えてみたんだけど。
彼の顔は、未だ怒っていて、機嫌も治らないみたいだ。
「俺への恩返しは、どうすんだよ」
「恩返し?」
「そう。俺に対する礼は?」
「そうですね……。あっ、仕事でミスしないように頑張るっ!! とか?」
「なんだよっ、それっ!! 俺には何の利益もないだろうがっ!!」
「利益もないって、そんな……。部下が頑張ってる姿は、恩返しにはなりませんか?」
「ならないな」
最後の言葉をポツリ言い捨てると、私の顔をジッと見つめながら左頬を包んだ。



