「一緒に、暮らす? 誰と誰が?」
「ははっ。本当に菜都さんは面白い人だね。僕と君、それ以外に誰がいるって言うの?」
「堤所長と私……」
「菜都。僕のことをいつまで“堤所長”って呼ぶつもり? 僕の名前は龍之介だよ。ねぇ、呼んでみて」
それはまるで魔法にでもかかってしまったかのように、自然に口が動いていく。
「……龍之介」
「そう、それでいい。これからは、そう呼んでね」
ニコッと微笑むと、私の頬にキスを落とす。
これは夢?
不確かなものを現実のものにしたくて、右手を伸ばし龍之介の頬に触れた。
その手に彼の左手が重なると、今まで柔らかに微笑んでいた瞳が一瞬で目の色を変えた。
「菜都って、やっぱ単純!! コロッと騙されるって、どんだけ純情なの?」
私から身体を離すとサッとベッドから降り、部屋の隅にある海外旅行用のスーツケースを持ちだした。
「まだ調子悪いんでしょ? だったら早く荷物詰め込んじゃって。さっさとうちに帰るぞ」
何? 何が起こったというの? 単純? 騙される?
……って私、まんまと堤所長の罠に引っかかってんじゃんっ!! それもぽーっと見惚れちゃって、頬にまでキスされるなんてっ!!
もうっ、恥ずかしいし腹立たしいったらありゃしないっ!!
頭の痛みも忘れてベッドから降りると、クローゼットから小さなボストンバッグを引っ張りだし、一泊分の着替えを詰め込んだ。



