「なぁ。なんで一泊分の荷物しか持ってこないんだよっ」
堤所長のマンションに着くと、いきなり不機嫌な声を出す。……と言っても、車の中でも散々文句を言われて、正直慣れてきてしまった。
どうしてこんなことになっているかって?
ハァ……。事の発端はこう。
※ ※ ※
私のマンションに入るなり、部屋中を物色し始める堤所長。
「菜都、ここの家賃っていくら?」
「何でそんなこと、堤所長に言わないといけないんですか?」
「だって、お前には分不相応っていうかさ。無理してる感バリバリ出てるじゃん」
うぅっ。それを言われると、何も言い返せない。
ドラマみたいな恋がしたくて、ヒロインになったつもりでここを借りたけれど、正直苦しい。
仕事が休みの日には、自分磨きと称して“エステ”や“ネイル”もしていたから、生活はいっぱいいっぱい。
こんな生活をしていたって彼氏ができるわけじゃないし、そろそろ潮時かな……なんて思っていたけど。
だからって、堤所長に分不相応とか言われる筋合いはないっ。そんなこと、自分が一番良く知っている。
「分不相応でも無理してる感バリバリでも、そんなこと堤所長には関係ないじゃないですかっ」
頑張ってるなと言って欲しかったわけじゃないけれど、悔しくて目に涙が浮かぶ。



