「そ、そうですか。市川さんっ。こんな素敵な彼氏がいるなら、もっと早くに紹介してくれればよかったのにっ」
いやいや、紹介するほど、あなたと仲良くないし。と言うか、あなたに紹介したら、すぐ噂の種になっちゃうしっ。
そもそも、堤所長は彼氏じゃないしっ!!
未だに手を繋いでるふたりにイラッとして、堤所長の袖を引っ張る。すると堤所長は野崎さんの手を離し、私の腰をギュッと抱き寄せた。
「では野崎さん、失礼します」
そう言うと、私の腰を引いてエレベーターに乗り込んだ。呆然と立ち尽くす野崎さんを置いて、エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。
「お世話になってるそうでって言っただけなのに、彼氏だってさ」
「あんな言い方するからっ。それにこんなことしたら、誰だって彼氏と間違えますっ!!」
腰に回っている手の甲をギュッと抓ると、「イッテッ!!」と叫んで腰から手を離した。
あの野崎さんのこと。このマンションの仲良くしている住人に、すぐ話すに決まってる。
これが本当の彼氏ならそれほど問題じゃないんだけど、堤所長は上司であって恋人じゃない。
どうしてくれるのよっ!! と言わんばかりにハァ~と溜息をこぼすと、堤所長が私の顔を覗き込んだ。



