「あれ、市川さんじゃない。って、あなたが素っぴんなんて珍しいわね。それに、こちらの素敵な男性はどなた? イケメンで素敵っ」
と、堤所長を見て目をハート型にしているのは、お隣りの部屋に住む野崎さん。私のふたつ上で28歳、彼氏あり。
とても人当たりが良く優しい人なんだけど、ご覧のとおり話し好き。うわさ話も大好きで、何号室の誰々さんが彼氏と別れたとか不倫してるとか、次から次へと情報を仕入れては私に話に来る。
いつもは私がメイクバッチリの休みの日にしか会わないのに、どうしてこんな日に会っちゃうのかなぁ……。
それに堤所長のことを、なんて説明すればいいの?
野崎さん、無茶苦茶期待した目で、私のこと見てるよっ。
どうする? どうするのっ、菜都っ!!
いい考えが浮かばず困り果てていると、堤所長が一歩前に出て、野崎さんに手を差し出した。
「初めまして、堤龍之介と申します。いつも菜都さんがお世話になってるそうで、ありがとうございます」
そう言うと、私もひと目で落ちた、瞬殺スマイルを繰り出した。
出たっ!! 爽やか堤龍之介っ!!
野崎さんを見れば、ハート型の目は輝きを増し、顔がほんのり赤くなっている。身体をもじもじさせながら手を差し出す姿は、好きな人を目の前にした乙女のよう。いつもの元気な野崎さんからは想像もつかない姿だ。



