「なんですか、これ?」
繋がれた手を、自分の目線の高さまで持ち上げた。
「病気の菜都が、倒れないようにと思ってさ」
「倒れることと手を繋ぐことは、関係ないと思いますけど?」
「関係あるないは、俺が決める」
そうでした。堤所長は、とてつもなく自分勝手なんでした。
諦めてダラリと腕を下ろすと、エレベーターが降りてくるのを待つ。
このマンションに住むようになってから、男性を連れてきたことは一度もない。
セキュリティが万全で女子ウケする外観から、このマンションの住人はほとんどが女性。時折、男性と仲良く帰ってくる住人と出くわすと、羨ましく思っていたりしたんだけど。
初めて連れてきた男性が、まさか堤所長になってしまうなんて。
嬉しいような、悲しいような……。
どうか、知っている人が降りて来ませんように───
だって私と堤所長は恋人じゃない。不本意ながら手は繋いでいるけれど、仲良く帰ってきてるわけでもない。
エレベーターが一階に降りてきて、チーンと音を鳴らす。ドキドキしながら扉が開くのを待つと、そこに姿を現したのは……。



