あれからの私はと言うと……。
車に乗ってからも、病院で診察中も、私の頭の中は堤所長が放った一言、
“好きだよ”──……
で埋め尽くされていて、堤所長や病院の先生と何を話したのか覚えていない。ただ適当に、「はい」だの「うん」だの答えていたような気がする。
そんな私が正気に戻ったのは、自宅マンションに前に到着し、堤所長に怒鳴られた時。
「おいっ、菜都っ!!」
「えっ? は、はいっ!!」
「いつまでボーッとしてんだよっ。着いたぞ」
その言葉にキョロキョロと車の外を見渡すと、確かに私が住んでいるマンションの前だった。
「堤所長。なんで私のマンション、知ってるんですか?」
「はぁ!? お前、ご丁寧に教えてくれたじゃないか。覚えてないの?」
「はい。全然、全く」
そうなんだ。私、ちゃんと教えたんだ。ホント、覚えてない。
「お前、大丈夫か?」
大丈夫? 身体が? 心が?
全然、大丈夫じゃないよ。特に心が……。
堤所長の顔を見てペコリと頭を下げると、車のドアに手を掛けた。
「昨日からお世話をお掛けして、すみませんでした。このお礼は、またいずれ。ありがとうございました」
リュックを抱えドアを開けようとして、その腕を掴まれた。
「菜都、何言ってんの。お前は風邪が治るまで、俺が面倒見るって言っただろ?」
「はいっ?」
いつどこで、そんな話になってんの? あぁ、確かに堤所長、病院の帰りに服を取りに行くとか何とか言っていたけれど、あれ本当だったの?



