上司だって覚えてる?
そんなの覚えてるに決まってるじゃんっ!! 会社にいる時とは全然違う、口が悪くて上から目線の偉そうな上司だけどっ!!
でもなんだかんだ言ったって、おでこにタオル乗せてくれたり、掛け布団を掛けなおしてくれたりする姿は、やっぱり会社にいる時の堤所長で……。
「なんだよ?」
不機嫌そうな顔をした堤所長と目が合うと、もう一度聞いてみた。
「どっちの所長が、本当の堤所長?」
やっぱり熱が上がってきたみたいで、頭がぼんやりする。眠たいのか瞼も重くなってきて、もう少ししたら閉じてしまいそうだ。
「どっちも俺だって言っただろ。まだ朝まで時間がある。寝るまでそばに居てやるから、早く寝ろ」
そう言っておでこのタオルを取ろうとした堤所長の手を、キュッと掴んだ。
「優しいのか意地悪なのか、どっちかにして下さい……」
私のとろんとした喋り方にフッと柔らかく微笑むと、私の手を握り直した。
「じゃあ意地悪でいくか」
意地悪でと言ったくせに優しくそう言い、私の頬に唇を寄せる。温かくて柔らかい唇が頬に当たると、甘く噛み付いた。
「今回はこれで許してやる。でも今度は……」
そこまで言うと立ち上がり、プラスチック製の桶を持って向きを変えた。
「堤所長?」
「ホント、お前といると調子が狂う」
顔も見ずそう言い残すと、部屋から出て行ってしまった。
調子が狂う……。どういうこと?
熱で侵されている頭ではそれ以上考えることができず、そのままゆっくりと目を閉じた。



