堤所長の胸に両手を当て、グッと押し離す。
「なんだよ?」
堤所長は少し怒った口調でそう言うと、怪訝そうな顔をする。
「こんなこと、困ります。それに、堤所長にまで風邪引かせるわけにはいかないので……」
心にもないことを言って俯くと、唇を噛み締めた。
「あっそ。でも俺は困らないし、風邪も引かないんだけど? それに、菜都の風邪なら、もらってもいいかなぁ~」
ホントこの人は、こんな時でも無茶苦茶勝手なことを言って……。私の事情も、ちょっとは察してよっ!!
呆れて溜息をつくと、顔を上げた。
「私なんかが風邪引いても誰も困らないですけど、堤所長が風邪引くと困る人がいるんじゃないですか?」
ちょっと嫌味っぽくそう言うと、堤所長の顔がピクッと眉を引き攣らせた。やっぱり怒らせたかな? でも今は、堤所長と言い争いをしたい気分だ。負けずに顔を見続ける。
「お前今、『私なんか』って言った? 誰も困らないって?」
あれ? 怒るのそっち? てっきり、『また彼女のことか?』とか言って、グチグチ言われると思ったのに……。
まぁいっか。こうなりゃ、言い争う内容なんて何でもいい。
そして私から、反論の口火を切った。



