この土地を400年間、代々守ってきた一族として、逃げるなんて楓には屈辱の何物でもないのだ。

子供の頃、まだ小さかった頃、よく変なものを見ては怖がっていた。

その度に泣いてばかりいた楓に祖母が、

「楓、また変なの見て泣いてるのかい? 」

と訊ねながら頭を撫でてくれていた。

「もう怖いの見るの嫌だよぉ」

泣きじゃくりながら、祖母に話した。

「楓の見える力はね、みんなを守るためにあるんだよ」

「みんなを守るため……? 」

「そう、みんなを守れるんだよ。楓のお父さんは見えないだろう?お父さんや見えない人を、守れるんだから。
――それに楓は元々強い子だろう? 」

「おばあちゃん、どうやったら、お父さんやお母さん、おばあちゃんもおじいちゃんも守れるの? 」

「それはね……楓が強くなりたいと思ったら、おばあちゃんのところに来なさいね」

「うん……。すぐ強くなれるの? 」

「おやおや……、楓は気の早い子だねぇ。本当に強くなりたいと思ったらおばあちゃんが教えてあげるから。今日は……」


術のすべては祖母に習った。

祖母も巫女の力が強く結界を張る力は祖父よりも上だった。

祖母が亡くなったあとは、祖父から少し習ったが……。祖父の術は陰陽師系の調伏の術だったのだ。結界は祖母よりは多少弱かったものの、妖退治に必要な調伏の術は祖母よりは、各段上だった。

楓が作る結界の威力の強さは、祖母譲りで、調伏は多少できたとしても祖父よりは劣る。

逆に調伏に関しては雅人の方が上だが、結界を張る力は楓には劣る。

二人とも、どちらかが強力でどちらかが、少し劣るくらいの程度ではあれど、霊力に関しては、楓も雅人も、祖父春治を凌ぐほどのパワーは持っているのだ。

そんな家系に生まれ、小さい頃から普通の人には見えないものを見ていた二人には見鬼の才能が備わっていたのだ。

楓は、自分の大切な人たちを守るために強くなりたいと願い、4歳になる少し前から術を習い始めたのだった。

誰も傷つけないために、そして雅人が危ない目にあったら助けるためにと……。