水ノ宮の陰陽師と巫女

これほどの結界を張っておけば、佳織に近づけはしないだろうと、思った瞬間、佳織の視線を感じた。

『何をしたの?』と言わんばかりの顔で、楓の顔をジロジロとみていた。

「ン?佳織、どうしたの?」

「え……? なんか部屋の雰囲気が違うから、前の結界霊符と違うのかなぁーって思って」

「おじいちゃんから預かった符は、今回違うのだから、そう感じるのかも」

と苦笑交じりに言った。

そうなの?なにがどう違うの?と不思議そうに聞きたそうにしていたが、佳織は

「これで大丈夫なんだよね」

と、再度確認しながら、楓はコクリと頷き

「うちの神社の神様を信じないなら、守ってくれないわよぉ」

と、あははと笑いを混じるように言うと

「楓のいじわる―!」

両の手をグーにして振りながら佳織は拗ねたようだった。

すぐ、安堵の顔に代わり、楓は家へ帰ろうとした時だった。

インターホンが鳴り、佳織が出迎えたのは

――真理だった。

あれほど学園の玄関で、断ったのにも関わらず、佳織の家に押しかけてきたのだ。

「……真理。――今日は楓とって言ったじゃない。どうしたの……」

真理はうつむいたまま佳織の言葉に返そうとはしなかった。

楓は二人を沈黙を守ってやり取りを見つめていた。

「真理、どうしたのよ!」

黙り込んでいる真理にいらだちを少し感じたように佳織は再度聞き返した。

「……楓がいるって言ってたし。楓もう大丈夫なのかなと思ってたし……。なんか佳織とばっかり最近一緒だし」

うつむいたまま真理は言っている。顔を一つ上げようとせず。

「あ……、真理ごめん。楓には頼みごとを前からしてて、それで今日も……だったんだ」

「なんか私……のけものにされた気分で嫌だった」

と、真理は拗ねて言った。

なぜここまで私に執着をするんだ?と楓はふと不思議に思った。雅人の話では、昨日は真理は佳織と一緒に佳織の家に来ていたはずだし、それは玄関での会話でも、話していたことだ。

私と話がしたいなら、佳織の家ではなく、『水ノ宮神社』に来ればいいことではないか?確かに今日は佳織の家に来るとは話していたのは、真理は知っている。だが、普通ここまで押しかけるようなことはするのか?何かがなければそんなことなんてするはずがない。
否、相手が家に帰ってくるのを待ってからその家に行けばいいだけのことではないのか……。

頭で考えつつも、真理の行動が少し異常ではないかと楓には思えて仕方なかったのだ。