水ノ宮の陰陽師と巫女

カチャとドアノブが閉まる音と共に、佳織が部屋の外に出たのを確認した楓は、式神が持ってきた祖父の霊符を取り出した。

四枚の霊符を右手の切印に挟み、静かに目を瞑った。

「我を守りし金人よ……」

唱えた瞬間、楓の切印に挟まれていた四枚の符は意志を持ったかのように、手から離れ宙に浮き、ゆっくりと弧を描くように時計回りに回りだした。

段々とその弧は範囲を広げ、楓の頭上を回っていたが、ゆっくりと静かに下に降り始めてきた。

自分の胸の辺りを回りだした符を確認した後、

「我を守りし金人に願う この場へ入り込む邪 異 魔 妖 負
全ての悪しきものを寄せ付けず この地を守りたまえ」

胸の前でクロスした両の手の切印を、左右に広げ

「結界」

と、唱えた瞬間、楓の周りをまわっていた四枚の符は各々の部屋の角の隅、天井に近い部分に飛んだ。

そして貼りついた霊符は、一般人には見えないほど透明になり、一枚一枚の符が、光を放ち次の符、そして次の符へと一条の光が符を珠をつなぐように一周した。

両の手の切印を胸の前に組み『ふっ!』と力強く息を吐いたと同時につながった符は、黄色い光を放ち部屋中を包み込み、数秒後には光は天井、床、壁へと吸収されるかのように移動し、結界は出来上がった。

ふうぅと少し長い息を吐き、瞼を開き、辺りを見回した。

ついさっきまで残っていた邪気も消えていた。

そして楓は佳織を部屋に呼び入れ

「これでもう大丈夫よ」

とニコリ笑い、佳織が部屋のあちらこちらを見回していた。

「なんか、昨日と部屋の雰囲気が違うような……」

昨日と違って当然のことだった。

楓が使ったのは、邪を祓いのけ、さらに水ノ宮の神の更に上の神、『金人』を守りにした結界なのだ。金人を呼びこみ力を借りる結界はせいぜい三日も持てばいいところ。
だが、金人の力による結界は、近づく妖、物の怪、霊などあらゆる邪や負の感情のものは、結界に触れた瞬間吹っ飛ばされるほどの威力を持つものだ。

≪操り針子≫が窓に近づき触れたものなら、すぐに滅されるというだけの強力な代物なのだ。