眠い目をこすりながら、1限目が終わるのを待ち、チャイムが鳴った。

楓は、すぐさま席を立ち、佳織を連れ、廊下に出て階段の下に降り、人気のないところで話し始めた。

「あ、あのね、楓……。昨日の夜、あの女が現れて……」

やはり結界は破られていたが、≪操り針子≫の気配は式神を放った時、感じることはなかった。
黙って佳織の話を聞きながら、佳織の一言に驚愕した。

「その、あの女が、言ったの……。お前の血を全部よこせって」

「血を?」

「うん……。そして楓のもよこせって言って……それで消えたんだけど……」

楓は耳を疑った。私の血もよこせとは、どういうことなのだ?

「そ、其れでね、楓……。楓のおじいさんからもらった符なんだけど……」

佳織はポケットから真っ二つに破られた四枚の結界霊符を差し出してきた。

「あの女って、この符がはがれたから出てきたの?」

恐怖を隠せないほど青ざめ引きつった声で佳織は言った。

「そうね……。今ここに結界霊符が破られた状態であるということは結界が破られたということだから、現れてもおかしくはないわ……」

気落ちし肩をすくめるように楓は答えたが、

「でも、大丈夫、安心して。おじいちゃんに聞いてみるから。放課後まで時間もらっていい?」

「う、うん……。
――楓……ごめんね。私」

言いかけた瞬間、楓は佳織の口元に人差し指を当てた。

「もう言いっこなしよ。何とかするから。絶対に」

うつむきながら、佳織は

「うん……」と頷いた。

そろそろチャイムが鳴る頃だ。楓と佳織は教室に戻ることにした。