水ノ宮の陰陽師と巫女

午前2時。

紺色の浄衣に袴を履き、雅人は『湯原佳織』の家の前にいた。

楓の祖父が言うには、昨晩ここに操り針子が現れているはずとのことだ。

それを楓が公園までひきつけて退治しようとした……。

再びここに現れるのか?それとも楓のところに現れるのではないか?ということが懸念されるが、楓の家は神社であり、あの辺りは、祖父『春治』の結界によって、妖異なものが近づけば、吹っ飛ばされるほどの威力の結界が張られている。

しかも今は、楓が動けないということもあり、さらにその結界の威力は増しているのは昨日の学校の帰り、立ち寄った際に気付いていた。

どんな妖や霊であろうとも近づかせることはしまいと言わんばかりに、春治が結界の力を強めたのは、孫の楓の為であろうと、雅人は思っている。

だとしたら、再度現れるなら、ここ『湯原佳織』の場所しかないはずだ。

10月も中旬になり、吹く風が冷たく感じるこんな夜に、雅人は佳織の家を張っていた。いつ現れるかわからない『操り針子』とそれを指示していたものを。

佳織の家を見上げると一カ所の部屋だけ、青白い四角い箱のように囲まれたところがある。その場所が佳織の部屋であり、結界霊符を貼ってある場所なのは、見てすぐにわかった。

再び現れて襲うならあの場所、佳織の部屋。みつからないように角にある街頭の後ろに隠れながら、見張り続けてる。

突如として機械的にも似ている音がした。

バシィィィィン!

青白い結界の壁に何かが当たっている。

「おのれ!まだこの結界は破れぬか!今宵こそは必ずや……」

現れた!

銀色の長い髪に白い着物、羽織を羽織った≪操り針子≫だ。

しかし雅人はまだ動かない。息を殺しながら、呼吸の音すらもたてないように潜んでいる。

辺りを見回し、操り針子に指示を出している者を探していた。

闇夜で暗い中にある明かりは街頭のみ、木の上や住宅街なので、家のどこかに潜んでいるかもしれない、あの少女のような声の主を目を凝らしながら辺りをくまなく見渡し、一つ一つに目を配っていた。

だが……。みつからない。どこにいる。焦る気持ちから心臓は早鐘を打つように、徐々に心拍数は上がり呼吸も早くなって行く。

辺りを静かに見回している雅人に、操り針子は存在を気づかれてしまったのだ。