水ノ宮の陰陽師と巫女

楓はやはり、あの妖と、あの教室で一戦交えたのは確証できた。

――あの妖が異空間を統べらせた?
しかし、あの妖の後ろには何かがいるのは確かなのは昨日の夜で分かったこと。
それほどの妖力を持っていたら、誰かをバックに着ける必要はないはず……。

それに、封印を施した、使われなくなった針たち……。

考えれば考えるほど謎が増えてくる。

「あの……。楓の幼馴染さんは……」

佳織の声は今は雅人の耳には届いていない。

謎が多すぎて、脳は沸騰し、耳から煙が立ち上がりそうなほどの問題と化していたのだ。

「あの……聞こえてますか?」

どこからともなく聞こえるか細い声が、聴覚を通して脳に少し囁きかけた時、今自分は、楓のクラスの子と話しながら帰っているという現実に引き戻された。

「あ、ごめん。なに?」

「あ、いえ……。なんでもないです。ただ……」

「ただ……?どうしたの?」

「どうして私なのかな……と、思って」

「あぁ……。それは護衛も兼ねてるんだよ」

「護衛?ですか……?」

そう、雅人は昨夜の帰り、頼まれたのだった。

楓の祖父に、あの娘から話をもう一度聞き、護衛をしてくれるようにと。ケガを負った楓は、今は学園にいない。同じ学園で起きたことなら、水ノ宮神社と同じく400年代々続く陰陽師の家系、藤原家も妖退治の専門家なのだ。その子孫である雅人に、春治は楓のいない間の守り番として頼んだのだ。

だが雅人は自分の家系のことを嫌がっていた。小学生の時から、妖退治をしてきたからだ。子供ながらに夜は眠い。眠いのに妖退治の仕事をしなければならないという、代々この町を守るのが藤原家の勤めでもあった。幼馴染である楓も同じく、妖退治を一緒にしていた。このころから楓の負けん気の強さは雅人も知っていた。

ある日、楓がこんなことを言ったことがあった。
「おばあちゃんが言ってたんだけど、私の見える力って、みんなを守るための力なんだって。だから私はみんなを守るためにもっと強くなるんだ!」と……。

自分だけ見えているのではない。楓も変なもの、妖や物の怪、霊を見ながら、対峙し、そして強くなるって言ったあの時、自分と同じなのに、どうしてそんなに強くなろうと頑張れるんだと思ったが、

「雅人も危ない目にあったら、楓が助けてあげるからね」と、幼い笑顔で言った楓の言葉を聞き、それ以来一緒に歩むことを雅人は決めたのだ。


そう決めていたのに……。

自分が遅れて到着したため楓にケガを負わせてしまった。

今、この子にとって、恐怖に耐えているのは楓がいるからなのは雅人にはわかる……。だから

「そう、護衛。楓休んでるし、ケガが治って学校に戻るまでの間だけどね。2.3日で治ると思うけど。何かあったら、僕に言ってくれればいいから。そうしたら楓のおじいさんに、伝えること、できるから……さっ」

歩みを進めながら、自分ができることを佳織に伝えた。

突然立ち止まり、佳織はうつむきながら

「ごめんなさい。私のせいで、いろんな人に迷惑かけて。ごめんなさい」

今にも消え入りそうな声で詫びてきた。

「気にすることないって。ほら、元気出して!楓のおじいさんの符、しっかり守ってくれるから。ねっ」

そうなだめると、コクリと頷き、佳織は歩きだし、家まで雅人は送った。
何かあったらすぐ連絡するようにと伝え、向かう足先を変え、水ノ宮神社へと向かった。