水ノ宮の陰陽師と巫女

歩を早めながら、楓と同じクラスの湯原佳織の所へと向かった。

今日の病院の話をしていた女子とその話を聞くために男子が、まだ教室に残っていた。

教室の手前の扉から

「ちょっとごめん、水ノ宮と湯原佳織さん、いる?」

「あ、水ノ宮は今日休みですけど、湯原はぁ……」

と、雅人の声に気付いて対応した男子が椅子から軽く腰を浮かせながら、キョロキョロと上目づかいで教室内を探し、

「湯原ー!お客さん!」

と、呼び出してくれた。

「君が湯原佳織さん?」

「は、はい。あの、私に何か……」

初対面の佳織は、雅人をチラチラとみて訊ねた。

「もう、帰るよね?少し話たいことがあるんだけど、いいかな?」


一瞬周りの話が途切れ、クラスの生徒全員が、佳織と雅人の方に視線を向けた。

その沈黙を切り裂くように

「あ、あの、どうして私なんかに、なにが話あるんですか?」

びっくりしながら、喉の奥から絞り出すように佳織は雅人に聞き返した。

「楓の友達じゃないの?」

「えっ?」

「それで、話、聞きたかったんだけど……。迷惑ならいいんだけど」

と、ポーカーフェイスを装いながら静かにそして意味ありげに雅人は言った。

「あの!楓は?楓は今日どうしたんですか?病院の検査にも来なかったし……」

関を切ったように、楓が病院にいなかったこと、熱を出して休んだとだけ先生に聞かされていたため、気になっていることが伝わってきた。

佳織にとって今は楓だけが、あの妖から、守ってくれる、『何かあったら、楓に相談しなさい』と、言った神職の楓の祖父の言葉を頼りに、佳織は恐怖から耐えていたのだった。

「今、支度しますから、待っててもらってもいいですか?」

と、足早に自分の机に戻り、佳織は無造作にポイポイとカバンに教科書などを詰めて、廊下で待つ雅人の方へと向かった。