水ノ宮の陰陽師と巫女

午後の授業が終わり、ふと思い出した。

「やばっ!湯原佳織のとこ行くの忘れてた!」

心の中で焦燥するような声を出しながら、教室を飛び出した。

被服室の缶を取りに行き、矢野佳織のところにも行かなければならない。

こんな事だったら、昼休みに持ってきておけばよかったと胸の奥でへこむような声にならない思いになったが、被服室に足早に向かった。

被服室の扉を開けロッカーから、封印された缶を取ろうとした時だった。

「誰?そこにいるのは」

飛び跳ねるように肩を上にあげ、ビクッとしながら声のする方を振り向いた。

声の主は黒須先生。雅人の方に歩み寄り、

「ここで何してるの?」

と、問うてきた。

「あ、いやあの……。針をですね……、折れたので、ここに仕舞うはずだったと思ってですね……。あの、それで……」

たどたどしくうその説明をしていると

「そう、だったら私がやっておくから、ほらもう帰りなさい」

「あ、はい。あ、いえ、じ、自分でやりますから。すみません。先生の手を、煩わせるのも……なんで……」

心の中で冷や汗もので、色々と持ち帰るために黒須先生を教室から追いやろうと必死だった。

「そう? だったら、鍵、締めなきゃないんだけど、早くしてくれる?」

「あ、はい。それじゃ……僕が鍵をかけて、職員室に持っていきますから」

ふぅと一息吐きながら、黒須先生は

「そうは言ってもねぇ……。昨日の今日だから、生徒一人置いとくわけにもいかないのよ」

両腕を組み視線を下に向けたまま、沈んだため息交じりの声で言った。

昨日の今日……。昨日何があったのか聞けるチャンス!と、雅人は口を開いた。

「あの、今日、3組の女子が病院でって聞いたんですけど、何があったんですか?」

「こら!興味本位で聞くんじゃないの!」

一喝されたが、楓が幼馴染であり、心配だというのを伝えると、黒須先生は深いため息をつき

「私もほとんど覚えてないのよ。気づいたら倒れていたってことで。記憶が少しないのよ。だから病院で検査だったんだけどね。
――ほら、早く折れた針しまって。鍵閉めるわよ。それと、今の話は口外しない事、いいわね」

黙ってうつむきながら雅人は考えていた。

「藤原君?」

微かに聞こえた声の方を向き

「早く仕舞ってくれる?もう鍵閉めるから。昨日のこともあるから、生徒置けないって言ってるでしょう」

軽い苛立ち感を声に乗せながら黒須先生は言った。

「はい」

持ち出しはできないか……。とあきらめ、缶を元に戻し、教室を後にした。