「針子、あんた!ここに連れ込まれたのにも気づかないなんて、馬鹿じゃないの!」

どこかで聞き覚えのある少女の声だ。

「わ、わわ我が主よ!た、助けて……」

悲痛に懇願する操り針子をよそに、声の主を見ようとした瞬間

空気を切り裂く音がした途端、楓の左腕を何かが捕えてすごい速さで通り抜けて行った。

はっと息を呑み左腕を見ると、袖の布は切り裂かれ、腕から血がしたたり落ちていた。

「楓……。これであんたも終わり。ふふふ」

「あなた……誰……?」

問うたと同時に激しい痛みに左腕は襲われ、出血がひどくなってきていた。

「そんな余裕なこと言っていていいのかなぁ?今の針、毒塗っておいたし。それも即効性のをたーっぷりとね。あと、どれくらい生きて入れるのかしら?あなたのような霊術使いの人間は!」

冷静に楽しそうに言い放っている少女は最後に、怒りをぶつけるかのように大声で叫んでいた。

今切印を解けば結界は消えてしまう。痛みにこらえながらも右手の切印と結界への集中を途切れさせないようにするのが、今の楓には精一杯だった。

だが……。左腕の傷の痛みと毒のせいかめまいがしてきていた。



木から何かが飛び降りる音と共に

「ちっ!少し遅れたか!」

たたたたっ!と走ってきたのは、雅人だった。

「縛続!」

切印と共に雅人が楓の作った結界の維持を引き継いだ。

「楓!大丈夫か!?」

左腕を抑えながら、

「どうして雅人がここに……」

「事情は後。今はこいつらが先だ!」

コクリと頷き楓は結界が張られている頭上の空に、陣を描こうとした瞬間、空を切り裂く音と共に、左側に何かが通り過ぎた。