水ノ宮の陰陽師と巫女

午前一時。眠い目を開け、白装束に身を包む。

草鞋を履き、緩みがないように紐をしっかり縛った。

「はい、お弁当」

父が玄関先に座り込んでいつものように夜食を持ってきてくれた。

「いいよ、お父さん。今日は早く帰ってこれるから。」

「そうかい?でも遅くなることもあるかもしれないし……。何か手伝ってあげたらいいんだけど、お弁当くらいしか、お父さんは楓にしてあげれないから」

霊感がないため、霊などを見えない父はその分、私たちの食事や、今夜のように出かける時は、夜食を作ってくれる。

「うん……。多分早く帰ってこれるはずだし。
――お父さんがせっかく作ってくれたんだから持っていこうかな?」

ニコッと笑った父が私は好きだった。

「そうかい。それじゃ、気をつけて行くんだよ」

「はーい!行ってきます」

玄関をあけ飛び出して走り、境内を通り抜け鳥居の階段を下りた。

「さてと……。霊符は渡したとしても毎夜出るというなら、佳織の家からね」

午前二時、佳織の家の方へ向かった。

祖父の結界霊符を張り、結界が出来上がれば、上位クラスの妖や物の怪は入り込むことはできない。

まして無理をして入り込もうとするなら、その身の一部は消滅するほどの威力の結界だ。

丑三つ時の今の時間なら、雑鬼たちも動きやすい時間帯なのは確かだし、活動しやすい時間に出るはず。

佳織の家には15分ほどで着いた。周りを見回すと、住宅街で街頭もしっかりついている。道路も広く、交通量もそれなりにあるような場所だ。隣接する家々は、もうこの時間だから、明かりのついている部屋は見当たらない。敢えて明かりがあるとしたら、街頭と、雲の合間からのぞかせる三日月の空の光のみ。

薄暗いなか、佳織の家も明かりがついている様子もない。