「異界を作れるほどの妖力があるとはね。時間かかりそうだけど……。――さっさと済まさせてもらうわよ」

そう言い、ポケットから札を取出し、構えたとほぼ同時に

「ボコッ!」

何の音だ?と音のした方向に目をくれた。

次々と音を立てて、杭の下から何か白く長いものが上に伸びてきた。

よく見るとそれは腕だった。

楓は息を呑み、視線を女と、土の下から出てくるものを交互に見ながら、攻撃のタイミングを見計らっていた。

――が、土の中から出てきたのは、被服の授業を行って受けていた教室内にいた、クラスメイトだった。

甲高い笑い声を上げる女。

「こやつらは我の僕……。相手をするのがこやつらなら手出しできまい」

と、さらにくつくつと笑っている。

「み、みんな……。どうしてここに!」

「私がこの異空間を作る時に、一緒に引き込んだのだ。我の術であやつらは動く。お前にとっては、手を出せないだろう?良い考えじゃろう?」

こんなことはどれほどのエネルギーを持った霊体でもできる業ではない。こいつは妖……。それも中位クラスでなければ妖であろうと物の怪であろうと、異空間を作ったりはできないのだ。

それより楓が驚いたのは『妖が思考を持っている?』ということだった。

そんなことは通常ありえない。それは低位から上位クラスの妖、物の怪全てに共通することなのだ。本来妖は、自分の本能、つまり自分がやりたいことをやりたい放題にするもの。

自我なんて持っているはずもなければ『考える』という力など持っているはずなどあり得ないのだ。

自我を持たないただのわがままなものであり、現世での理から外れているものが、なぜ……。

女を一瞥しながら考えたが、とにかく今は女を封じ、この異界を壊し現世へみんなと戻ることだ。

「キンジョウ タテマツル アッキバッコ ジョセイシ キュウキュウニョリツリョウ」

唱え、符を女に向けて放った。