パターンを取ったパジャマを今日は縫い付けて、上着の方を作る予定だ。

両肩を先に縫い付けるので、待ち針を差して止め、仕付け糸で先に大きく縫い付けておく。

その後、ミシンで縫い付けて行くのだが。

仕付け糸はただミシンで縫う前の、印つけだ。

家庭科が得意な子もいれば、苦手な子もいる。

苦手な子が針を指に刺したりするのは、時々あることだが、やはり今日は違った。

待ち針で止める時でも、仕付け糸を縫い付ける時でも、各大きなテーブルに座った生徒の誰かが、針を刺してしまったり、引っかけてしまったりと、小さなケガをしていた。

それは、あの女が近づいた生徒だけだ。

わからなければ先生に聞くのは当たり前のことだ。
しかし教えてもらった生徒が、あの銀髪の女がそばに行くことになるため、なぜかケガをしてしまっていたのだ。

なぜあの女がケガをさせている?

何が目的があるのか?

針仕事は、家柄的に得意だが、確かめる必要がある。

「先生ー!ちょっといいですか?」

と、私は先生を呼びつけた。

同時に、銀髪の女も先生とともに、すすっと私の元に近づいてきた。

「どうしたの?水ノ宮さんが珍しいわね」

そういわれると、戸惑うが、どこを聞こうかと思い、もう一枚の後ろの方のチャコの印を少し消して、わざと聞いた。

「あの、ここなんですけど、印が消えちゃってですね……。それで、その……、途中まで仕付けしたんですけど。消えちゃってるからわからなくてどう印の仕付けを縫っていけばいいのかと思って。先生、どうしたらいいです?」

「あらあら、本当に。こんなミスするなんて珍しいわね」

そう言ってパジャマを持ち上げ、肩の部分を見て、待ち針を差し直してくれた。

その間、銀髪の女を私は凝視し、何かをするのを待っていた。

大体の霊体などは、人間の脳にそのまま呼びかけてくる。

それは一般の人には何も聞こえるわけではない。言葉として聞こえるのは一部の霊力を持った人間だけ。そう、私のように代々巫女だったり、霊媒師や霊能者と言った者も含めだ。

妖や物の怪、霊などその個体が持つエネルギーが大きければ人のそばに近づくだけで心や体に影響が出る。それだけの類であってもこれだけの人が、ましてや裁縫が得意なサクラですら指に針を刺したなどあり得ない。この女が何かしない限りは。

頭でつらつらと考えつつも、視線を変えずに凝視していたが、こちらに寄って来るわけでもない。

さらに何かを言おうという気配はない。ただ微かに口元に笑みを浮かべている。

女とのにらめっこが続く中、声がした。

「少し待ち針の間隔を短くしたから、これなら縫えるでしょう?」

黒須先生から渡されたパジャマの布は、確かに待ち針の間隔を狭めて縫いやすくしていた。

「あ、ありがとうございます。これなら仕付けできます」