警察の取調室にて

ごま塩頭の刑事が
頭を押さえながら言葉を続ける。

「その男とは面識は?」

青白い顔をして女が答える。

「同じマンションで何度か顔を合わせた事はありますが、会話はありません」

綺麗な顔が恐怖で固まっている。

「そして男はある日近寄って来て貴女に言ったわけだね『君のハートを盗みに行くよ』と」

女は刑事の言葉に肩を震わせ、両手できつく自分を抱きかかえた。

「はい」

「その時の気持ちは?」

「怖かった、すごく恐ろしかったんです。ハートを盗むなんて……そんな」

女は泣き崩れる。

「だから?」

「はい。盗られる前に盗りに行きました。でなきゃ自分が……」

刑事はタメ息をついて

肝心な事を女に尋ねた。

「それで、彼の心臓はどこに?」

  


  【完】