米本はマシンを降り際にそうつぶやいた。そのつぶやきに、直人は動きを止めた。
“エンジン、ミッション、排気系は問題ない。ショックとタイヤもいい…”
耳に残った言葉の違和感を、直人は必死に引き出そうとした。そう、まるでジグソーパズルで最後の1ピースが見つからないかのようだ。
“エンジン、ミッション、排気系は問題ない。ショックとタイヤもいい…”
エンジン、ミッション、排気系…。ショック、タイヤ…。残りの1ピースは…。直人の頭の中でマシンのパーツが次から次へと浮かんでくる。
「フレームだ!」
直人は素頓狂な声をあげた。
「エンジンパワーが上がった分、フレームの強度がついていってなかったんだ。だからバランスが…」
「ご名答…」
米本は直人の肩を軽く叩いた。
「さぁーて、俺もテストに戻るかなぁ。今年はきっちりシリーズ・チャンプになって、来年のWGPにつなげなくちゃならんからな」
米本は笑みをもらした。その笑顔に、直人と雅之もやっと笑いをこぼした。
「米本さん、きっちり勝ってくださいよ!米本さんが世界に行かないと、俺らがステップアップできないんですから」
直人の言葉に、米本は大きな声で笑ってこういった。
「ばーか。言われなくてもわかってら。WGPが俺を待ってるからな。全日本チャンプを手みやげに、世界にいってやるさ!」
そういうと、米本は2人に背を向けて、ピットに向けて歩き出した。直人と雅之はその姿が見えなくなるまで、そこに立ち止まっていた。心からの感謝の念を込めて。