「そこがこのニューマシンの一番の改良点かな…」
直人は誇らしげに言った。それは、余ったカッティング・シートから即席で作ったステッカー。ローマ字で”REMI”といれた。この数ヵ月間、忙しさでかまってあげられなかった申しわけなさと、その間の支えとなってくれた彼女へ、直人からの本当にささやかな、感謝の気持ちだった。
「ありがとう…」
言いながら、玲美は直人に抱きついた。彼女の背中越しに見えるテレビが、ゆく年のカウント・ダウンを始める。
「…6・5・4…」
司会のお笑い風の男が異様なまでに興奮しながら、カウントを続ける。
「…2・1・ゼロー!」
「みなさん、あけましておめでとうございまーす。年は1996年となりましたぁー!」
テレビの中のピーポー女が叫ぶ。直人はテレビのリモコンを取ると、スイッチを切った。部屋の中に静けさが戻る。今は1996年1月1日。2人だけの新しい年の始まり。
「あけましておめでとう、今年もよろしく…」
玲美が小さな声で言った。直人も言葉を返した。
「こちらこそ、どうぞよろしく」
そう言うと、直人は玲美をもう一度強く抱きしめた。優しい時が緩やかに流れていく。しかし、2人は一瞬の間に、あることに気付いた。お互いに顔を見合わせた。玲美が叫ぶ。
「いっけない、おそばのこと忘れてた!」
玲美が慌てて、台所に飛んでいく。直人はそのシチュエーションに、思わず噴き出してしまった。結局、鍋の中にあった2人前のソバは、見事にウドンへと変化をとげ、笑えない姿のソバを、それでも笑いながら2人で平らげた。直人はしばらくして玲美を家まで送りとどけると、部屋に戻った。玄関で靴を脱ぎながら、直人は一目で見渡せる自分の狭い部屋を眺めた。玲美とつき会い始めてからもう4ヶ月が過ぎていた。いつのまにか、部屋には玲美のものが増えている。最近では着替えまで置いてあるようだ。
”家族は心配していないのかなぁ?そういえば、玲美から家族の話って聞いたことがないなぁ…”
と直人は考えたが、
”おいおい、家族と対面なんてぇのは、いくらなんでも気が早いんじゃないか?”
と思い直し、思わず苦笑いしてしまった。直人は笑いながら部屋に上がり、マシンの前に腰を下ろした。
「おい、今年はお前に賭けてんだぞ。頼んだぜ、相棒」
そう言って、直人はマシンをポンと叩いた。