「今度は大丈夫だよ。俺だけじゃない。ほかにも応援が来るんだ。うまくすれば入賞、いや表彰台のテッペンだってあるかもしれないぞ」
今の雅之の言葉が、直人の唯一の救いだった。応援がある強み。少なくとも今までの直人にはそれすら与えられていなかった。だがそれとはうらはらに、直人の頭の中では完走すらできないというコンプレックスが、心をもみくちゃにする。今度こそという気持ちと、今度もという気持ちが複雑に入り組んでいる。
「マシン…整備しなくちゃ…」
直人はこの空気から逃げ出すかのように、マシンの整備を始めた。自分の全神経をこのマシンに集中しようとした。だが、明らかに気持ちだけが空回りしていた。スパナを持つ手が震えてさえいた。直人は雅之がそっと部屋を出ていったのも知っていた。しかし直人には雅之に話す言葉も、それどころか、雅之と顔を合わせることすら出来なかった。八つ当たりしているのは自分だということがわかっていたから…。直人はただひたすら、マシンを整備しようと集中することに、集中していたのだった。