「付き合わない」 どちらかが動けば、その唇は重なる。 10センチの距離であたしはイガラシにそう言った。 「あたしはイガラシが好きだけど、イガラシがあたしのこと好きじゃないから付き合わない」 イガラシの口に当てたままだった手を離して、あたしは立ち上がった。 「イガラシ、失恋したの?一緒だね」 あたしはイガラシにくるりと背を向けて、もと来た道を歩いた。 扉の前で一瞬だけ振り返ってみたけど、イガラシは何も言わなかった。