あの夜の、不思議な感覚は、今も覚えてる。

3年経ってから、大きな仕事を任されるようになり、

アドレナリン全開で、馬車馬のごとく働いていた頃。

恋愛と、仕事でバランスをとっていた私だったが、

マーとの別離で、明らかに仕事が傾いていたとき。

日付を跨いで家に帰った。

ケータイなんて、いじる余裕もなくて、なんとなく画面に視線を落とした。

バックライトがやけに眩しくて目を細めた。

なんだ、、、これ。

着歴は、ぐっちゃんのみ。

うそみたいに埋め尽くされていた。

息がつまる。

左手を胸にあて、高鳴る鼓動を押さえるように、コールする。

なにか、あったんだ。

酒は飲んでない。

今からでも、どこにだって、飛んでいく覚悟で、じっと待つ。

どうしよう。

出ないのか。

左手をついて、立ち上がりかけたタイミングで、

「もしもし。」

ぐっちゃんは電話にでた。

とても長いことコールしていた気がする。

よかった。

「どうした?びっくりするやん。着歴はんぱないで。」

「俺はもう、だめかもしれない。」

「何いってんの?今どこ?事故?怪我?迎えに、、、。」

「結婚するかもしれない。」

サーっと血の気が引いていく。

突然のことで、なんと言われたかも、理解もできない。

それなのに、不思議と体は反応している。

まずい。

あちこちで、警鐘がなってるようだ。

クラクラして、酔ってしまうような浮遊感。

戸惑う気持ちを押し殺すように、声を絞り出す。

「待って。全くわからない。」

「彼女が妊娠したかもしれない。」

え。

何?

「気持ちよくって、中で出しちゃって。」

よく、聞こえない。

こんな話するために、私に電話したの?

「彼女、風俗なんだよ。俺は結婚したくない。」

そりゃそうだろう。

こいつ、バカじゃねーか。

一通りテンションが下がって、ぐっちゃんを卑下する。

「ね、私明日仕事なの。そんな話なら、週末に聞くから。」

ぐっと、息をのむのがやっとだ。

食い気味でぐっちゃんが、話を続けようとする。