勿論、田舎でも就活はしていた。
でも私を受け入れてくれる奇特な会社は無かった。

みんな何故だか、勿体振ったような態度だった。
その原因が何なのか解らない。
私はそれも調べず、知らされないまま東京に逃げて来ただけだったのかも知れない。


東京が恐ろしい場所だと言うことは、さっきのハプニングで解った。

アイツがバイクで駆け付けてくれなかったら……

そう思うと怖くて堪らない。




 兄貴は橘遙さんのファンだと言った。
AVも仕事なの?
仕事だって割り切れば何だって出来るの?

あんな厭らしい目をした俳優陣を相手に……


ふと、アイツのことが気になった。
アイツも出来るの?
愛してもいない客に対して、愛の言葉を囁けるの?


それでも私はアイツを信じたい。
アイツの出かける前の言葉を信じたい。

アイツは話してくれたんだ。
ホストになった経緯や意気込みを。

きっと、私を安心させるためだったんだな。




 ホスト。
それはアイツが望んだ世界。
育ててくれた親への感謝を忘れた訳ではない。

でも生まれついての美貌を放っておく手はない、とスカウトの人に言われたらしい。
だから、自分を磨いて賭けに出たそうだ。


精一杯のおもてなしに客は喜び、多額の報酬をくれる。

でも、だからと言って誰彼構わずふんだくる訳ではない。

心のこもった接客に対するご褒美さえも拒否をする。
だから規定以外は頂戴しないのだ。
その誠実さがうけて、いつの間にかナンバーワンと呼ばれるようになったのだ。


元々其処お堅いホストクラブで通っていたらしい。

女性の心を揉みほぐし、明日を迎えるための栄気を与える。
それがコンセプトのようだ。


お客様とのトラブルは禁物で、ナンバーワンだからと言っても直ぐ蹴落とされるシビアな世界らしい。

アイツがナンバーワンになれたのも、でっち上げられたスキャンダルで前任者が退店したからだった。


だからこそ身をキレイにしておかなくてはいけないそうだ。




 「その人はホストに人生を賭けたような人だった。そんな人まで一つの躓きが命取りになる。だから怖い……。でもだからこそ遣り甲斐もあるんだ」

アイツはそう言いながら、もう一着のピエロの衣装に袖を通していた。