お前は別の奴の場所に行こう。私は所詮、一時の仮住い。けど、それでも――
「手と手が触れ合う距離にお前がいた記憶を、消したくはない」
手を伸ばす。
当然のように握られる。
そんな関係、そんな記憶は一生覚えておきたく――死んだら消えるじゃないか。
「だから君は、特別なのだよ」
夢から覚めた後、残響した声。
水から這い上がったかのように息をする。何故かと思えば、すすった鼻で察する。
寝ながら泣いたかと起き上がる。聞いた秒針の音で、起きたくはない悪夢に来たかと項垂れそうになる。
寝ている私は、声を出して泣いただろうか。だとすれば喉を裂きたいが、分からないならばどうすることもできない。


