「泣きそうだ」
「泣けばいい」
「それが出来たら苦労はしない」
医学的にも、涙を流せば、ストレスもなくなる――俗に言えば、泣けばスッキリするという説は証明されていて、そんなどうでもいい知識が頭にあっても。
「声を出す泣き方を忘れた」
大人になってから、泣けなくなった。いざ声を出そうにも、悲痛は喉笛から奏でられない。
泣くことは悪ではない。むしろプラスになることが多いはずなのに。
「泣けなく、なった」
「泣き叫んだら最後、喉を切り裂きたくなるからだね」
「……」
自身の知らぬ自身を言い当てる奴は、私の心を見透かしている。吐瀉物のように見て気持ちがいいものでもないのに、奴の弓がしなった口元はそのままだった。


