彼女が楽器を下ろした後も、少しの間、教室には沈黙が流れていた。


「即戦力になりそうね。佐々木さん、木下さんの分もコンクールの譜面のコピーを用意してあげて」


「あ、は、はい」


そのセリフを聞いて、木下美波は私だけに分かるように密かに微笑んだ。


私と同じ譜面を見るということは、フルートの中の同じパートを演奏するということ。

それはそのまま、直接的なライバルになることを意味する。


コンクールメンバーは人数制限があるため、顧問、部長、コンサートマスター、パートリーダーによって選抜されることになる。


今年は和希くんと一緒にコンクール出れないかも……。


後ろ向きな考えは嫌いだけど、それほどまでに実力の差は明らかだった。