私は稲木先生が嘘をついている。そう思いたかった。でも稲木先生が本当のように言うから私は信じるしかなかった。
「ついたぞ!早く降りろ!」
バタンッ
私は走った。看護師に注意されてもそんなのは耳に入らない。
「奈那美先生!」
なぜか病室のドアがあいていた。
そして病室にいる皆が悔しそうな顔をしている。
「先生!先生!奈那美先生は?」
「残念ながら…」
「は?先生?何言ってんの?奈那美先生は戻って来るよね?」
「私たちも最善を尽くしたのですが…」
「先生!!嘘でしょ?私を驚かせようとしてるんでしょ?」
「…」
私は考えられなかった。奈那美先生は私の前から消えるなんて。
「先生…ねぇ先生!」
「もうやめなさい。」
「嘘って言って。奈那美先生は消えない!」
「もうやめなさい!笹野!」
私は地べたにしゃがみ込んだ。
もうここには奈那美先生がいない。そんな事考えたくもない。
「ちょっとお話良いですか?稲木さん。」
「はい。」
「稲木先生。私も聞く。聞きたい。」
「分かった。先生ここで良いですか?」
「はい。ではお話します。南田さんは頭を打って血管を切ってしまいました。一応手術はしましたが、それでは血は止まらず、血の海が頭に出来ていました。その血の海をとるにはすごくリスクが高く、取れたとしても、脳が傷ついたりして、どちらにせよもう手遅れでした。私たちも最善を尽くしましたが力が及ばず…」
「もう大丈夫です。」
私はこれ以上もう聞けなかった。結局は全部私のせいで。私がいじめられていなければ奈那美先生はいなくならなかったわけで。全て私が悪い。実際そうなのだから。