由薇は立ち上がって持って来ていたらしい鞄を手にとった。
『………帰る』
「え?ぁ、おー…」
成一は驚いたように声を上げてから曖昧に頷いた。
由薇はそのままボーッとした顔で出て行った。
「………お前等も大変だなぁ」
加藤は溜息を吐いてポケットからタバコを取り出した。
「………先生、ここガッコーだよ」
「職員には何しても許されるっつー特権があんだよ」
………ねぇよ。
「まー、そんなこと気にすんな。
あと、屋上からも時々煙見えるからな」
………目よすぎだろ。
「………冷蝶捜してんだろ?」
「………は、何で知って…」
「結構出回ってるぞ?
突然現れ、消えた冷蝶を“白冷”が捜し回っている、と」
加藤はタバコを燻らせながら笑った。
「お前等もご苦労なこっなぁ。
最強を誇った冷蝶はそう簡単に見つかんねぇだろ?」
………ごもっとも。
情報のスペシャリストとしても名高かった冷蝶だ。
自分のことを隠すことなど造作もないだろう。
………だから、余計面倒くせぇ。
「………まぁ、頑張れ。
ーー案外、人には糸が絡まり合ってるもんだぜ?」
ボソリと呟いた加藤の言葉に口を開きかけると、加藤は「さー、職員会議行くかなぁ」と何もなかったかの様に伸びをした。
何も言えることもなく、「じゃーな。早く帰れよ」という加藤の言葉を聞くことしかできなかった。

