「気持ちいいか?」
『……ん』
潜もって聞こえた小さな声にドアを開こうとした手が止まる。
立て続けにギシッとベッドが軋む音がして、我に返り扉を勢いよく開ける。
「……」
「……あ、お前等が噂の転校生か!」
そう言いながらもまだギシギシとベッドは軋む。
『………もうちょい上』
「あいよ」
『………どーかしたのか?』
「……お前、保健医に何やらせてんだよ」
『………マッサージ?』
誤解を招く言葉と音をたてるんじゃない。
苛立ちに拳を握ると、保健医は「終わったぞ」と由薇の背中を叩いた。
『いってぇな。』
「はい、ココア」
『…はぁ………』
溜息を吐いた由薇は保健医が差し出したココアを飲み始めた。
「あ、紹介遅れたな。
俺は保健医の加藤 廉-Katou Ren-。よろしくな!」
毒気の無い無邪気な顔で自己紹介なんてされると、非常に反応に困る。
由薇は黙って俺達の自己紹介のし合いを見ていた。
『………で、何で保健室に来たんだ?』
由薇はココアを飲み干したのか、コト、と缶を置いた。
「………昼飯食いに行くから誘おうと思って」
影助がそう言うと、由薇はキョトンとして口を半開いた。
『………言ってなかったか?』
「え?」
『私は飯を食わん』
その発言に俺達はしばしフリーズした。
「な、んで?」
『人間の三大欲求の食欲が私には欠けているのだ。
性欲にもあまり興味が無いし、睡眠も眠くなればとるだけでとても求められるわけではないな』
「せ、性欲っておま………」
案外純情な影助は真っ白な肌を赤く染めて言葉を詰まらせた。
『まぁ、食欲が欠けているんだ。
これからはあまり気にするな。
最低限の栄養はとってるから』
「………例えば?」
『………牛乳、豆乳、ヨーグルト「全部主食には程遠いからね」
千尋はニコッと笑いながらも額に青筋を浮かべていた。
まぁ、食生活には驚きだな。確かに。
「……少しずつでいいから食ってみろよ」
『出来てたらやってるよ』
儚げに口元を歪めた由薇に、
俺達は何も言うことができなかった。

