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ギィ
嫌な音を立てて開く重い扉。
その先には真っ青な空が広がっていた。
「………ぇ」
千尋が驚いたように小さく声を発したのに気がついて、影助は不思議そうに顔を覗き込んだ。
「………青い青い空を見上げてる奴等は少し下に視線を下げてみなよ」
千尋は額に手を置いて目を瞑り、唇を苦々しく歪めた。
「………」
ふぅん。
屋上もこいつの所有か。
真っ黒の髪を投げ出して屋上の地面に寝転ぶ例の地味女。
何処にでも居るのな。
溜息を吐くと、衣緒と成一は興味をそそられたらしく、女に近づいた。
………どうも、あの澄んだ空気を纏う女が千尋は苦手のようだ。
まぁ、俺もあの纏っている空気は息が止まりそうになる。
「なぁなぁ、こいつの顔ってどんなんだろうな」
「えー?やっぱりブスでもなく美人でもない顔じゃない?地味な」
「ひでぇなお前等」
女を哀れむ様に呟くと、衣緒は「冗談だよ」とタバコを咥えた。
……吸いすぎだ。
軽く息を吐く影助はさらに上に行ける建物の影となったところに座った。
「髪払ってみる?」
「勝手にやってろ」
衣緒がまたタバコを咥えながら女の横にしゃがんで、それを見た成一はさっきとは打って変わり、興が削がれたようにタバコを吸った。
「んじゃーーー……」
『ーーー何をしている?』
小さく呟かれたその声にぞわりと冷たく背筋が撫でられた。
「な、………」
『何をしていると聞いている』
寝ていたと思われる女は上半身を起こし、近くにあった鉄柵に凭れた。
『………興味本意なら直ぐ様この場から去れ』
「何であんたにそこまで言われなきゃならないの?」
若干キレたように眉を寄せながら言う千尋に怯みもせず、女は視線を向けた。
『………まぁ、それもそうか。』
「は?」
………何なんだ、コイツ。
敵意剥き出しだったと思えば、千尋の言葉をすんなりと受け入れておとなしくなる。
『じゃぁ、いい。
そういえば、ここは共有の場だからな。
誰もここに訪れる奴なんて居なかったからすっかり忘れていた』
………呆けてんのか恍けてんのか。
じっと目を細めてそいつを見つめると、目が合った気がした。
長い前髪のせいでそれすらわからないが。

