“翡翠”
「な、ん……」
驚きの声をあげた成一に多智は目を向けた。
「……すみません、話にだすものではありませんでしたね」
多智は目を伏せて口元を歪めた。
「……とりあえず、座れ」
動揺を隠した声色で呟くと、由薇は目をフッと細めた。
全員、ずっと座ってきたソファーに腰を下ろしたのを見て千尋が口を開いた。
「で、由薇は“翡翠”の何だったの?」
単刀直入な千尋の言葉に由薇は小さく身じろいだ。
「……それは、由薇さんに聞いてください。」
そう言ったのは臨で、今まで従順としか言いようのない態度だったのが、少し目を伏せてそう言い放った。
その言葉に少なからず千尋も驚いたらしく、少しだけ目を見開いた。
「……そんなの…「千尋」
俺が名前を呼ぶと、千尋は少し鋭くした目で俺を見た。
「何」
刺す様な視線は邪魔をするな、と“白冷”の幹部として言っていた。
だが、それを無視して顎を引いて静かにさせた。
「無理矢理言わせても何の意味もない。
それに、冷静になれ」
「……別に冷静だけど? 何? 何なの?
トップとしてしっかりしないといけないの、朔じゃないの?」
「千尋‼」と成一が叫んだが、それを手で遮って必死な目を見つめた。
「周りを……由薇を、よく見てみろよ」
突然名前を出された由薇はビクッと体をはねさせたが、さっきと同様、体を小刻みに震わせた。
小さいその体は抱きしめてしまえば壊れてしまいそうだと思った。
……問い詰めれば、あいつ自身が折れてしまうと思った。
ハッと千尋が由薇を見て、顔を歪めた。
そうだ。
俺をずっと見ていたのに、すぐ隣に居る由薇さえも視界に入らなかったのだ。
「……落ち着け」
そう言うと、千尋は深く息を吐いてソファにもたれた。

