「ダメダメ!ダメよ…!あの人と私では身分が違いすぎる!遊びで終わらされてしまうわ!」
くしゃりと、持っていた紙を握りしめ、自分にそう言い聞かせる。
絶対に超えることの出来ない大きな壁。
女にはそれを打ち破る力なんてない。
ましてや、天皇の息子と……。
あるわけがない……。
美月は身体に入っていた力を抜き、握っていた紙をくずかごの中にいれた。
散策をし終えた拓也が部屋に戻ると、弘世が起きていて、机にまた向かっていた。
辺りにはかみくずの山が出来ていた。
それを拓也がひょいと拾い上げる。
「……恋文か。」
「!、た、拓也様!」
いつの間にか戻って来ていた拓也の方を慌てて振り返る。
「そろそろ身を堅めろ、とは言ったが、こんなに早くにも見つかるとは意外だな。」
弘世の近くに腰を下ろす拓也。
「は、はい。」
「何処の娘さんだ?」
「え?」
「お前がそこまで夢中にならせた娘さんだ。気になるではないか。」
弘世はいつも真面目な奴で、曲がったことが大嫌いなそんな人であった。
今まで女の話しなど縁のないことだと、見向きもしなかった者が、ここへ来て恋文など書きはじめたのだ。
最初は何処かへ送る手紙だと思ったのだが、まさかそれが恋文で、しかもこんなに部屋が散らかるまでも弘世を夢中にさせる相手とは、興味深いものだ。
もちろん、弘世は自分の部下であり、実の兄弟のように育った。
だから、誰よりも一番拓也が弘世の幸せを願っていたのだ。
「私達のすぐ近くに住んでおられます。まるで、桜のように綺麗で美しく、気品のあられる方です。」
「そうか。お前の想いが届くといいな。」
「はい。そういえば、拓也様は今までどちらに行っておられたのですか?」
「ああ、私も愛しい人を見つけに出ていたのさ。」
「愛しい人?拓也様も見つけておられたとは、奇遇ですね。」
「ああ、そうだな。」
桜の花びらが舞う中、慌てた表情をして駆けて来る娘を想う。
普通女性というのは滅多なことでは顔を出さないし、声をかけても上辺だけであって、真意など見えたことがない。
雄一、心を通わせた相手であっても、権力や立場、政治などの前では無力なのだ。
だが、あの娘はそんな気持ちなど、吹き飛ばしてくれる。まるで春風のような存在だ。

