ドンという鈍い音が聞こえる。

目の前の合瀬の姿が一瞬ぶれ、横の方に吹き飛んでいく。

何が起きたのかはわからないが、とにかく助かった。

僕はそう思いながら合瀬を吹き飛ばしたモノを見た。



それは僕のことを冷ややかに見下ろしていた。

瞬きすることなく、飛び出し掛けた眼球は、充血で真っ赤に染まっているかのように見えた。


「ば、馬場……先生?」


僕の問い掛けに答えることなく、馬場先生は手にした鎌をゆっくりと振り上げる。

そして迷うことなく僕の頭を狙って振り下ろそうとした。

僕は痛くない方の足で馬場先生の足首辺りを蹴る。

僅かだが体が揺らぎ、白く光る刃は僕のジャージを掠めて地面に露出していた木の根に突き刺さった。



僕は、馬場先生が鎌の刃を木の根から引き抜く間に逃げる。

無意識なのか何かが作用したのか、なるべく木々の密集した場所に逃げ込む。

そこなら、刃物は大きく振るえないはずだ。

僕は低い木が集まった場所に身を屈め、息を潜めて馬場先生を見た。