その時だった。
急に座席に体を押し付けられるような圧力を感じる。
そして、その反動で僕の体は前に動く。
バスの急制動。
道路に何かあったのだろうか。
無防備な江口さんの体も前に動き、僕は咄嗟に腕を出した。
手に伝わる柔らかな感触。
あの日、僕に覆いかぶさってきた感触と同じものだ。
髪が反動でさらさらと流れる。
急接近した江口さんの、耳の横の髪に覆われた地肌が、メガネの跡の分だけ、微かに白いのを見つけた。
車内に響き渡る悲鳴と怒号。
この旅行のクラス委員として、怪我人がいないか確認するべきだろう。
僕がそう思い、座席から立ち上がった時だった。


