「大丈夫ですか?」


僕は人影をそっと揺する。

たぶん大丈夫だ。

不意打ちとはいえ、あれだけ応戦していた。

それに、この人はプロだ。

自分の身を守る術は身につけているだろう。


「う……」


人影は、今まで聞いたことの無いような苦しげなうめき声を上げた。

生きている。

だが、暗闇でわからないが、声の感じから、傷が思ったよりもヒドいように感じられた。


「あの……、人、呼んできます!」


僕はそう言いながら、家から持ってきた薄手のゴム手袋をはめる。

そして、後ろのポケットから、この前、学校で蹴飛ばした物を人影の側に落とした。

生徒手帳。

坂木の忘れ物。


「僕、さっき逃げたやつ、知ってるような気がします。同じ高校の……」


僕は人影に、僕の名前を告げて、その場を後にした。