金属の音が止んだ。
坂木のものと思われる、荒い息だけが暗闇に響いている。
僕はマンションの階段を降り、座り込んでいる坂木の前に立った。
「坂木くん、コーヒーあるけど、飲む?」
そう言いながら人影に目をやると、ぴくりともしていないようだ。
「お、お前!」
坂木はたぶん、信じられないという顔で僕を見ているのだろう。
「それじゃあ、今、滅多打ちにしたのは誰だ!? なあんて思ってたりする?」
「な……」
「ねえ、これってヤバイんじゃない? 動いてないよ?」
「お、お前が悪いんだ!」
「嫌だな〜自分で勘違いしといてさ!」
「あああ……」
「逃げなよ。誰も見てないし。さあ!」
「あぐわああ……」
「行け!」
坂木は腰を落としたまま後ずさりすると、何度も転びながら、走って逃げていった。