「何、ひとりで喋ってんの?」


あかねさんがひとりで入ってきた。

気づかなかったが、母親のバッグは既に消えている。

たぶん、部屋を出る時から手にしていたのだろう。

僕は母親とあかねさんが、どんな会話をしていたか気になった。

だが、それ以上に、『声』の命令のことが僕の頭の中を占めていた。

いきなり胸の前に手を突き出して、変に思われるのではないか。

いろんな話をしてくれなくなるのではないか。

嫌われるのではないか、と。

とにかく機会を窺うしかない。

もう、あの痛みは嫌だ。

僕は母親との会話内容を聞くことにした。