「あら〜」
僕のささやかな望みは、母親の間抜けな一言で、残念ながら断ち切られた。
「あっ! お、お母さん! い、いらっしゃったんですね……」
あかねさんは、チョコパイを両手に持ったままそう言うと絶句した。
母親はそんなあかねさんの表情を気に留めるでもなく、間抜けに続ける。
「あら〜おいしそうね〜」
「え、えっと、よ、よろしければどぞ……」
「あら〜いいの〜? サトシ、戴いときなさい」
「え、あ、うん」
「矢沢さん。ちょっといいかしら?」
「は、はい!」
あかねさんと母親は、そのまま病室を出て行ってしまった。
今頃、どんな会話がされているのだろうか。
このチョコパイはどうすればいいのか。
そんな事を考えていた時だった。


