「検温ですよ〜」
あかねさんが元気よく、そう言いながら引き戸を開けて入ってきた。
「はい、サトシくん。体温計って! 腕出して! 早く! 早く!」
「な、何を、い、急いでんすか?」
「私、この検温終わったら、申し送りして終わりなの」
「デ、デートっすか?」
「ち〜が〜う〜」
「え〜っと……」
「チョコパイ食・べ・よ・う・ぜ!」
「え、ええ、はい。あ、ありがとうございます」
僕は、クローゼットの扉で見えない母親の存在が気になっていた。
出来ればそのまま隠れていてくれ。
このまま息子の、ひと時の邂逅を見逃してくれ。


