「……トちゃん! ねえ、サトちゃんってば!」


僕はみどりの声で我に返る。

脳裏に焼きついた、あのマンションの壁の色を、頭の片隅に追いやると、僕はみどりの方に体ごと向きを変えて、椅子に座りなおした。


「ごめん! ごめん!」

「サトちゃん……さっきも言いかけたんだけど、最近ね、ぼんやりしてること多いよね」

「……そうかな?」

「うん。私、移動教室のときも見てるもん。一度なんか、手を振ったんだけど気づいてくれなくて、間違って、江口さんが振り返してくれた」

「僕、元からボーってしてるからなあ」

「そうかなあ……」