「サトちゃん……」

「え?」

「って言われてるんですね……」

「あ……はい。幼馴染なんです」

「ふ〜ん……そうなんですか……」


江口さんはそう言うと黙り込んでしまった。

何か気に障ることでもあったのだろうか。

その顔は少しだけ、すねたように見えた。

もちろん初めてみる表情だ。

僕は何か言わなければマズイのではと思ったが、こうやって二人でいるところを坂木に見られることを恐れた。


「じゃあ、後で」


僕は小さい声でそう告げると、足早に教室へと向かった。

廊下の角を曲がるとき見た職員室の前には、まだ立ったままの江口さんの姿が小さく見えた。