「サ、サトちゃん……こ、こんなの……やだよう……」


あの夏に、怒った僕が悲しくて、泣いたみどりがそこにいた。

その瞬間、一瞬だが『声』の呪縛が解ける。

僕はありったけの力を込めて手を引っ込めた。

『声』も僕の抵抗に気づき、脳への攻撃を再開する。

僕は痛さのあまり気が遠くなりそうになったが、必死にみどりの元から手を遠ざけようと踏ん張った。


「み、みどり……に、逃げて……は、はやく!」


僕がやっとの思いでそう叫ぶと、みどりは、その声にスイッチが入ったように跳ね起き、ドアの前まで走っていった。


『チッ! ……クソが!』


そう言い残して『声』が消えてしまうと、ドアの前に呆然と座り込むみどりと、ベッドに俯せになって身動きが取れない僕がいた。

僕の目の前には無惨に溶けた、メロン味のアイスの棒だけが転がっていた。