「ゲッってなんだよ。また水ぶっかけてやろうか」
「やめておいたほうがいいよ。大窪くんに、殺されちゃうから」
ケバマツゲはウッと、一瞬怯んだ顔をしたけど、すぐに不敵な笑みに変わる。
「マジでムカつくんだよね。あのふたりは怖じ気ついて、もうあんたに関わらないって言うし」
利口な判断だと思いますが。
「私は腹の虫が納まらないから、謹慎中に考えたんだよ。大窪くんにちくれないであんたから別れを言うように仕向ける方法」
性格わるー……。
「ね~俺のこと忘れてない? 尾行したりするの趣味じゃないんだよね~。遊びに行きたいから、さっさと終わらせよ~」
そう言って、ケバマツゲの連れの男の子は私に近づいて、右腕を掴むと。
――チュッ。
「~~‼‼‼‼」
唇がぶつかる。前髪が額に触れる。私は目を見開いたまま、固まってしまった。
「かーわいい。驚いて、声も出ない? 女の子にキスするだけで五千円もくれるっていうからのったけど。君なら、最後までしてもいいよ~」
な、ななな……。
「夏樹、写真撮れたからもう帰っていいよ。このキス写真、ばらまかれたくなかったら適当に理由をつけて、大窪くんと三日以内に別れな」
「彼氏と別れたら、また遊ぼうね~」
ひらひらと夏樹と呼ばれた男の子は手をふって、ふたりは私の前から立ち去った。


