「付き合ってないのに、順番おかしいけど。この今の瞬間が、すごく幸せで。帰るのが名残惜しいから」

「……だ、だからってキスは……」

「じゃ、ほっぺた」

「……」


グッと腰に手を添えられて、顔が近づく。私は大窪くんを見上げたまま、動けなくて……。


「逃げないなら、するよ」


初めてキスされた時は、あまりにも不意討ちで逃げられなかった。

二度目は呆然として、動けなかった。


でも、今は逃げられる。そんな時間を大窪くんは作ってくれている。


少しずつ近づく距離。私はギュッと目を閉じた。


頬に伝わる唇の感触。


ドキドキ、ドキドキ。
心臓の音が、大窪くんに伝わっちゃいそう。


「……すげ、かわいい」

「大窪くん……」

「目うるうるして、赤くなって。これ以上、一緒にいると、歯止めきかないから本当に帰る。またね」



そう言って、大窪くんは私の頭を優しく撫でて、来た道を走って帰って行った。



私はその後ろ姿を見つめたまま、動けなくてなった。キスされて、逆にバイバイが名残惜しくなっちゃったなんて……。



私、大窪くんのこと好きになっちゃった――……。