嘘……。 振り切れたと思っていたのに……――。 「携帯……返してください」 右手を稲葉君に差し出してお願いすると、彼は首を横に振ってあたしの携帯を耳に当てた。 「狼谷……?俺のこと分かる?」 クックッと喉を鳴らして笑いながら電話の向こう側にいる星哉に話しかける稲葉君。 「えっ?なんだって?聞こえねぇなぁ~。……――へぇ。そういうこと言っていいんだ?」 星哉が彼になんて言っているのかは分からない。 だけど、穏やかに会話をしているわけではないことは確かだった。